視覚に不自由を抱える者たちがともにつくりあげる共同体。そこで手は目にかわるまなざしとなり、光にかわり音を通して世界が認識される。ブラインドマッサージや音楽演奏を通して、福祉の手が届きにくい世界の中で生きる術を探り出す。そこで彼らはケアを受け入れる者となり、同時にケアをあたえる存在となる。
“Our Co-Blind - An Ethnography of Care among Visually Impaired Communities in Baguio” は、フィリピン北部・ベンゲット州の視覚障害当事者による共同体形成とケア実践を描いた民族誌映画。2022年4-9月の半年間のフィールドワークと人類学的アプローチを通して撮影・制作され、2023年にオーフス大学映像人類学修士プログラムに学術論文と合わせて提出された。

生、コミュニティ、感覚
このリサーチプロジェクトが協働の対象としたのは、Blessed Community of Persons with Disability (BCPD) という、視覚障害当事者たちによって自ら形成された自助コミュニティである。彼らはブラインドマッサージと呼ばれる当事者たちによるマッサージ活動を主な仕事とし、並行して楽器演奏や農業、手芸などを通して生計を立てている。
行政からの障害者支援が乏しいことを背景に、彼らの生活水準は非常に低い。障害を持つ者が個人として生きていくことは困難であり、多くの当事者たちは自助コミュニティで共にくらし、多様な活動を通して収入を得ている。​​​​​​​

BCPDのリーダー、アルヴィン。全盲の彼は若い頃にマッサージのトレーニングを受け、2020年のコロナ禍にコミュニティを立ち上げた。

多重的なケア​​​​​​​
彼らの活動を「ケア」の観点から見つめると様々なことが見えてくる。彼らの暮らしの中には「ケアする者」と「ケアされる者」という明確な役割の区別がなく、状況や関係性に応じてケア役割が生成される。例えば、マッサージにおいてはそのトレーニングを受けたメンバーが主体となって運営し、「健常者」と呼ばれるお客にセラピストとして「ケアを提供」する。一方で路上に立つと、彼らは音楽演奏などの路上パフォーマンスを通じてドネーションを募り「ケアの受給者」となる。
当事者によるコミュニティはバギオを中心に多数存在し、メンバーたちは複数のコミュニティに所属する。ギタリストとして活動するのはコミュニティA、セラピストとして所属するコミュニティB、共同生活をする場所としてコミュニティC、のように。多数の当事者コミュニティは互いに排他的に散在しているのではなく、部分的に重なり合いながらケアのネットワークを形成している。​​​​​​​
あいだに生まれるケア
作品中では、BCPDのメンバーたちがコミュニティの活動を通して関わり合い、互いにケアを提供し合う様子が描かれる。それは言葉に表されるものだけでなく、手と手の触れ合い、独自の身体感覚を用いた音楽演奏、ともに歩くという行為などからも感じ取られる。
経済的な厳しさを抱えながらも、それをともに乗り越えようとする当事者たちの語りと行為の中に、変化し続けるケアの形を見出していく。

点字に手を添えて読むアルヴィン

BCPDの秘書でありアルヴィンの妻、シャーレイ。半盲の彼女は、BCPDのペーパーワークの大半をこなす。

作品概要
Title “Our Co-Blind - An Ethnography of Care among Visually Impaired Communities in Baguio”
Year of Production 2023
Country of Production Denmark
Duration 38min
Interlocutors Alfredo Esquillo, Shirley Esquillo, Domingo Regados, Junifer Ap-Ap, Jennifer Maysa 
Director / Editor Masato Ushimaru (Aarhus University, MSc in Visual Anthropology)
Translator Darleen Vee Bialno
本作品は、オーフス大学映像人類学修士課程における修士プロジェクトの成果物として制作され、同時に撮影された写真作品、および学術論文と合わせて同大学に提出されました。また、国内外の映画祭・写真展にも提出され、今後日本や海外での上映や展示を検討しています。
関心をお持ちいただける方は、コンタクトフォームまたはSNSよりご連絡ください。
修士課程における一連の研究は、スカンディナビア・ニッポンササカワ財団による助成を受けました。

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